めんどくさいことをやれっつー話

世の中いろんな手法はあるのだけど「無駄」は省けても「本質的な困難」を消せる手法っつーのはないように思う。

手元に『GE式ワークアウト』という本がある。数年来本棚に放置されていた本で、役にたつかは分からないがそこにあった。

ここでいう「ワークアウト」というのは会社の課題(できれば根源的なもの)を草の根的に議論を始めたあと、ある種のプレゼンを通じて上位陣営(できれば取締役級)の決済を得た後に議論の成果を体系だって組織に浸透させる活動の手法……であるように見えた。最初の数ページでそう見えたんだ。

……合格だ(葬送のフリーレンのゼーリエ風)

問題はこの場合、手法の細部はともかく「ワークアウトを実施し切る覚悟ありますか」という一点に尽きるのだと思う。ここで読者の99%は脱落するはずだ。そして残った1%のうちの90%くらいは上位陣営を説得できない。残りの90%はその後の取り組みで持続力を維持できない。さて何人残っただろう(こたえはこたえは……0人。読者が一人もいない〜)

ゼーリエ風味に「合格」なのは本の視座だ。おそらくこの視座を持って2000年代初頭に書かれていた本がそのあとの書き筋で凡庸ということはおそらくない。だから本は「合格」

ただし読者が実施できるかどうかは「極めて怪しい」。読んで「分かる」は間違いない。ただし大抵、読んだ後には字義通りに実施しないし、ましてやはじめから自組織にカスタマイズもできようはずがない。「守破離」でかっこつけて「破」あたりからやって失敗するのはよくあることだ。問題はこの手の改革は本の内容を「守」ってもどこかで荒波に出会うことだ。大事なミーティングにみんな参加してくれなくなったりする。忙しくて自分がかいてあることをすっぽかす。

最も根底にある難しい条件がある。この手のことはどんな手法を使っても「めんどくさい」のである。これを越す魔法の薬というのはなかなかない。

もう少し構造化するならこうだ。時間がかかり、優先されるべき事態が差し込まれ、意識が常に別のトピックに引きづられる中で(経営者が変わることかもしれないし、子どもの不登校かもしれない)、意識を自然と引き付けてくれるわけでもない自分提案のやや「長期」的視野に基づく匍匐前進みたいな地道でスローな活動を維持するのは本当に難しい。難しいは数式が解けないとかじゃない。ダイエットできない、みたいな難しさだ。眼の前のお菓子すら我慢できない人類には不可能にすら見える。

ここ最近は(うーん自慢かな、自慢に見えるかな、まぁいいか)本系統の(場合によっては数年ものの)めんどうくさい話を数個捌いてきた履歴が自分の中にできてきていて満足している。

そういっためんどくさいうちの一つは、ようやくこちらの仕事が着地して案件からバイバイできた……と思った後、そのさらに数年後にめんどくさい原因だった人が逮捕された。「本当にヤバいやつだったんだ」と感嘆してしまった。その一連の(時間だけで言えば5年以上の単位でストーリーが散発的に続いていた)話題で振り返って思うのは、そういうことを踏み越えていくのは確かに真の自信につながるのだなということではある。あと些末ながら、なんなら案件中に捕まってほしかった……

こういった賢しい中年にならないとわからないことの一つ。めんどくさいものはだるい。そして言葉尻賢くても、こういった「めんどくささ」「だるさ」が越えられないというパターンがとても多いのだということが身にしみて分かってきた。

とはいえ、具体的に語るに難しいが(ぜひ語って自慢したいが)単に我慢するという話ではなくて、ある程度基礎的な思考方法と自分の怠惰を是正する仕組みの組み合わせで成功率は上がるのだという感じもある。

ただ、最初に言えるのは、キラキラした手法はいいからめんどくさいことをやる覚悟は持てよということだと思う。

中年になると、若手の我慢のなさというのは確かに我慢ならないというケースが有る。最近着地しつつある取り組みがあるのだが、言ってから着地の道が数年後くらいに見えてきた今の段階ですでに3年経っているのはなかなかハードなやつだ。トータルで5年もののプランだったわけだ。いやプランとすら言えない。誰かがいれば、……つまり、上のような粘り強いことをやってくれちゃう偉い人がいればすぐに開始して着地が収まる話が、自分が着地まで持っていく場合にはその数倍エネルギーと時間がかかるという話なのだ。「都合の良いスーパーマンがいればすぐ終わるので、終わらせてくれ」みたいな希望にすがるのは、冷静に考えるときっつい。若手というより正真正銘のガキでしょ。どーにも私も「最近の若いもんは」とか言いかねないじじいに近づいている。でもこれ、「最近」要らないね。「若いもんは」こういうもんなんだと思う。いいから、めんどくさいことをやれよ

私のケースでは、「結果的に」考えれば(当初はスルーされたりしていてほんとしんどかった)、終始めんどくさいことをやり続けた私の方に勝機が湧いてきたような感じだが、この経過を観察すると「めんどくさいことをやれ」という凡庸な言葉はかなり震える程度に人に失望させるアドバイスで、とても重要だ。

冒頭の本の評価はそれと比べれば一瞬でできる。そういうことをやってきました。ご紹介します、という本なら、それの著者は正真正銘でやりきった連中であることは自明だ。合格だ。ただし、読者を合格に導けるとは思わない。それは読者の宿題だ。